Share

3話 最初の一手

last update publish date: 2026-07-29 18:00:15

 豆のペーストが、三日で売り切れた。

 マルタから知らせが来たのは夕方のことだった。皺だらけの手に空の小瓶を三つ持って、長屋の前に立っていた。

「全部出たよ。もっとないかい」

 エリナは内心で静かに拳を握った。表情には出さない。驚いた顔をすると足元を見られる——これも前世で覚えた交渉の基本だ。

「次は六瓶用意する。一週間待って」

「六瓶じゃ足りないかもしれないよ。隣の区画の人も欲しがってた」

「じゃあ十二瓶。でも値段は変えない」

 マルタが値踏みするように目を細めた。

「……あんた、本当に七つかい」

「先週なった」

 マルタはまた皺だらけの顔で笑って、帰っていった。

 エリナは扉を閉めてから、初めて小さく息を吐いた。

 第一フェーズ、通過。

 問題は原材料の調達だった。

 十二瓶分の豆のペーストを作るには、今の買い物代では足りない。母のセレーナが縫製で稼ぐ金は、家賃と食費でほぼ消える。手元にある貯えはわずかだ。

 エリナは台所の隅に座って、頭の中で計算した。

 豆一袋:二ルシェ。香草:市場で自分で摘めばゼロ。獣脂:三ルシェ。陶器の小瓶:一個二ルシェ、十二個で二十四ルシェ。

 合計で約三十ルシェ必要になる。手元には十八ルシェしかない。

 十二ルシェ足りない。

 借りるか、減らすか、別の方法を考えるか。

 三択を並べて、エリナはすぐに借りるを消した。この段階で借金を作るのはリスクが高い。信用も担保もない七歳の子どもに金を貸す物好きはいないし、いたとしても条件が悪すぎる。

 減らすを考えた。瓶の数を十二から八に絞る。でもマルタへの約束を早々に破るのは信用の毀損になる。それも消した。

 残るは別の方法。

 エリナは少し考えて、立ち上がった。

 翌朝、エリナはマリオを訪ねた。

 大工の家は長屋から二区画離れた場所にある。父親のゴツい後ろ姿が作業場に見えた。マリオは外で木片を削っていた。

「来た」とマリオが顔を上げた。まるで来ることがわかっていたような顔で。

「来たよ」とエリナが答えた。

「何か手伝えることがあるんだろ」

「なんでわかるの」

「あんたが人を訪ねる時は、そういう時だけだと思って」

 まだ知り合って数日なのに、妙に見抜かれていた。エリナは少し考えてから、正直に話すことにした。下手に遠回しにするより、この相手には直球の方が早い——そういう直感があった。

「瓶が必要なの。陶器じゃなくていい。何か液体を入れて蓋ができる容器。木でも作れる?」

 マリオが目を細めた。

「木の容器か……蓋付きとなると、ちょっと難しいな。でも父ちゃんに聞いてみる」

「お父さんに話すの?」

「俺一人じゃ無理だよ。でも父ちゃんなら作れると思う。ただ——」マリオが少し言いにくそうに続けた。「タダってわけにはいかないと思う」

「わかってる。売れた分から払う。最初は後払いになるけど、絶対払う」

「俺はいいけど、父ちゃんが頷くかどうか」

「説明させてもらえる? 直接」

 マリオが一瞬だけ驚いた顔をして、それから立ち上がった。

「……来いよ」

 マリオの父、ハンス・ヴェントは最初、エリナを見て苦笑した。七歳の小娘が商談をしに来たと思ったのだろう。でもエリナは動じなかった。

「木の小容器を十二個作ってほしい。縦横それぞれこのくらい」

 地面に木の枝で寸法を書いた。

「蓋は押し込み式でいい。密閉できれば十分。豆のペーストを入れて売る。一個売れるごとに、あなたに二ルシェ払う。今は払えないけど、一週間以内に必ず払う」

 ハンスがじっとエリナを見た。大きな手で顎を撫でながら、しばらく黙っていた。

「……なんで信用しなきゃならない」

「信用しなくていい」

 エリナはまっすぐ答えた。

「でも、もし一週間後に払わなかったら、容器を全部返す。それだけ約束する。損はしない」

「材料費と手間はどうする」

「もし売れなかったら、うちの母が縫製をしている。一週間分の縫い仕事で返す。それで釣り合わなければ、追加で話し合う」

 ハンスがまた沈黙した。

 マリオが横でそわそわしていた。エリナは待った。

 一分ほど経って、ハンスが低い声で言った。

「……三日で作る。受け取りに来い」

 エリナは深く頭を下げた。

「ありがとうございます。必ず返します」

 帰り道、マリオが隣を歩きながら言った。

「父ちゃん、あんなに早く頷いたの初めて見た」

「交渉がうまくいったわけじゃない」エリナは歩きながら答えた。「お父さんが誠実な人だっただけ。誠実な人には、正直に話すのが一番早い」

 マリオがしばらく黙ってから、ぼそりと言った。

「やっぱり変な子だな」

「よく言われる」

 三日後、木の容器が届いた。

 ハンスの仕事は丁寧だった。蓋の噛み合わせが精巧で、逆さにしても中身が漏れない。陶器より軽く、割れない。エリナは受け取った瞬間に、これは陶器より良いと判断した。

 その日のうちに十二個分のペーストを仕込んだ。豆を煮る間、薪の火加減を細かく調整する。香草の分量も前回より少し変えた。試作と改良——製品は常に前のバージョンより良くする。これも前世からの習慣だ。

 翌朝、マルタの元へ届けに行くと、市場の顔なじみが数人集まっていた。口コミが回っていた。

「これがあの豆のやつかい」

「パンに塗るのか、スープに入れるのか」

「両方」エリナが答えた。

 「パンに塗ると香草の風味が立つ。スープに溶かすとコクが出る。温めても冷たいままでも食べられる」

 実演してみせた。マルタから少しパンを借りて、ペーストを塗って一口大に切り、並べた。

 集まった人々が次々と口に入れた。

 反応は早かった。

「美味しい」「なんだこれ」「子どもが作ったのか」「いくらだ」

 十二個が、その場で半分売れた。

 残りはマルタが預かることになった。夕方までに全部出たと後で聞いた。

 一週間後、エリナはハンスに二十四ルシェを払った。

 有り金のほぼ全部だったが、払った。約束は守る。それが信用の土台になる。

 ハンスは金を受け取って、少し目を細めた。

「次も頼むか」

「はい。今度は二十個。できれば少し大きいサイズも一種類追加してほしい」

「……わかった」

 それだけだった。余計なことは言わない。エリナはその簡潔さが好きだった。

 帰り道、マリオがまた隣についてきた。最近、エリナが動く時はなんとなくついてくるようになっていた。

「なあ、次は何を作るんだ」

「石鹸」

「せっけん?」

「体を洗うもの。今ここで使われてる薬草よりずっとよく汚れが落ちる。作り方は単純で、灰と獣脂があればいい」

 マリオが首を傾げた。

「なんでそんなこと知ってるんだ。誰かに教わったのか」

 エリナは少し考えた。

「……本で読んだ」

 嘘ではない——前世という「本」で読んだのだから。

「どこにそんな本があるんだよ」

「もうない。でも覚えてる」

 マリオがまた妙な顔をした。そういう顔をされるのにも、最近慣れてきた。

「石鹸、俺も手伝えるか」

「できることある?」

「灰なら竈から出せる。獣脂は父ちゃんの知り合いの肉屋に安く分けてもらえるかもしれない」

 エリナは少し目を見開いた。それは想定していなかった提案だった。

 人脈、か。

 自分にはまだそれがない。知識があっても、人と人のつながりは一朝一夕では作れない。マリオが持っているものは、エリナには今のところないものだ。

「……手伝ってくれると助かる。売れたら取り分を渡す」

「別にいらないよ」

「取りなさい。対価がなければ対等な関係じゃない」

 マリオがきょとんとした。七歳の子どもが言う言葉じゃなかっただろう。でもエリナは本気だった。

 人を無償で使い続けることは、いずれ関係を壊す。前世でそれを見てきた。だから最初から、きちんと払う。小さくても、形として。

「……わかった。じゃあ受け取る」

「よし」

 エリナは頷いて、前を向いた。

 豆のペーストが最初の一手だとしたら、石鹸は二手目だ。商売というのはチェスに似ている——一手一手を積み重ねて、盤面を自分に有利な形に変えていく。焦らず、でも止まらず。

 王都はまだ遠い。クロヴェル家の名前は、今のエリナには巨大な壁に見える。

 でも壁は、いつか必ず、崩せる。

 知識と時間と、信頼できる人間が一人いれば——きっと。

 夕暮れの路地を、七歳の令嬢崩れと大工の息子が並んで歩いた。影が長く伸びて、二人分、地面に落ちていた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える   98話 それぞれの動き出

     四月になった。 春が本格的になった。 市場に花と野菜が並んだ。 フィオナの庭の薬草が、緑色を深くした。 農地の薬草が、二年目の芽を出し始めた。 エリナは毎朝、台所の窓を開けた。 春の空気が入ってきた。 今年も、春が来た。 でも、今年の四月は、動きが重なった。 四月の最初の週に、フィオナが地方の学校に向けて出発した。 三カ所を順番に回る予定だった。 一カ所に、二日から三日滞在する。 全部で二週間ほどの旅だった。 出発の朝、フィオナが長屋に来た。「行ってくる」フィオナが言った。「行ってらっしゃい」エリナが言った。「気をつけて」「気をつける」フィオナが言った。「何かあれば、手紙を出す」「待っています」「ルシェムが、待っていてくれる」フィオナが言った。「それが、わかっているから、どこにでも行ける」「帰ってくる場所があるから、遠くに行ける」エリナが言った。「あなたの言葉だ」フィオナが笑った。「でも、今日は自分の言葉として使う」「そうしてください」 マリオが見送りに来た。「フィオナさん、行ってらっしゃい」マリオが言った。「ありがとう、マリオ」フィオナが言った。「ルシェムは、俺が守っておく」マリオが言った。「マリオが守っているなら、安心だ」フィオナが笑った。「いつも、そう言ってくれるから、どこにでも行ける」「それが俺の仕事だから」マリオが言った。 ルナが来た。「庭の薬草、水をやっておく」ルナが静かに言った。「ありがとう、ルナ」フィオナが言った。「帰ってきた時に、育っていると嬉しい」「育てておく」ルナが頷いた。「植物は、帰ってくる人を待っている」「その言葉が、好きだ」フィオナが言った。 フィオナの馬が動き出した。 エリナ、マリオ、ルナが見送

  • 灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える   97話 春になる、また

     二月になった。 冬がまだ続いていた。 でも、日が少しずつ長くなってきた。 夕方、作業場の前に立つと、去年の今頃より少しだけ長く外が明るかった。 エリナは、その変化に気づいていた。 春が、近づいている。 毎年、同じように春が来た。 でも、毎年少し違う春だった。 今年の春は、父の名誉が回復された後の最初の春だった。 二月の初めに、レインから手紙が来た。エリナへ「届いた」という言葉を受け取った。「続けてきたことが、今日の形になった」という言葉も。俺も、同じことを感じた。遠くにいたが、届いた日のことは、ここにいてもわかった気がした。師匠に話したら、「そうか」と言った。それだけだったが、師匠の「そうか」は、受け取った、という意味だとわかっている。春になったら、行く。今年の春のルシェムを見たい。それと、個人的なことを一つ。師匠が今年の夏に退く方向で、学院と話し合いが進んでいる。師匠が退いた後、俺がどうするかを、少し考えている。まだ言葉にできない部分がある。でも、考えていることは確かだ。春に、話せると思う。レイン エリナはレインの手紙を読んで、「春に、話せると思う」という一行を少しだけ見た。 言葉にできない部分がある。でも、考えている。 以前、レインが同じようなことを言った時、大事なことが言葉になる前だった。 春に来る。そして、話す。『レインへ「届いた日のことは、ここにいてもわかった気がした」という言葉を受け取りました。遠くにいても、繋がっているということですね。それが、続けてきたことの形だと思います。師匠のことを受け取りました。師匠が退いた後のことを、春に話してください。聞きます。春のルシェムを、見てほしいと思っています。今年の春は、少し違う春かもしれません。父の名誉が回復された後の最初の春だから。待っています。

  • 灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える   96話 年が明けて、届いた日

     一月になった。 新しい年が来た。 ルシェムの元旦は、今年も静かだった。 市場が休んだ。道を歩く人が少なかった。 エリナは朝、台所の窓を開けた。 冷たい空気が入ってきた。 霜が降りていた。 今年も、同じ朝から始まった。 元旦の朝、台所に行くと、蜂蜜のパンが置いてあった。 八年連続だった。「また蜂蜜のパンですね」エリナが言った。「毎年同じの方がいい」セレーナが言った。「始まりには、同じものがいい」「来年も、同じですか」「来年も同じにする」セレーナが穏やかに言った。「それが、続けることだから」 エリナは蜂蜜のパンを食べた。 甘かった。 八年間、変わらない甘さだった。 変わらない甘さが、続いてきたことの味だった。 マリオが来た。「おめでとう、新年だな」「おめでとうございます」「毎年言っているな」マリオが笑った。「毎年言ってくれますね」「来年も言う」「わかっています」 マリオが少しだけ、エリナを見た。「今年は、どんな年になると思う」「わかりません」エリナが言った。「でも、続けることは変わりません」「それだけで十分だな」マリオが頷いた。「続ければ、何かになる。それが、これまでそうだったから」「そうですね」「お前と一緒にいて、一番覚えた言葉だ」マリオが言った。「急がない。でも、止まらない」「マリオが、その言葉を使えるようになりましたね」「お前から学んだ」マリオが言った。「七年間で、一番大事な言葉を学んだ」 一月の第二週に、レインから年始の手紙が来た。エリナへ新年になった。今年も、手紙を書く。今年の冬に、また霜の石畳を一緒に歩く。それが、今年の始まりに確かなことだ。一つだけ、届けたいことがある

  • 灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える   95話 続いていく

     十二月になった。 冬が本格的になった。 ルシェムの霜が、厚くなった。 朝、窓を開けると、白い息が出た。 エリナは毎朝、台所の窓を開けた。 今日の空気を確認した。 今日も、冬の空気だった。 それが、当たり前になっていた。 当たり前になったことが、続いていることだと、今は知っていた。 レインが学院に帰って、一週間が経っていた。 手紙が届いた。 エリナへ 帰ってきた。 学院の石畳は、今日も霜が降りていた。朝、歩きながら、今年もエリナと一緒に歩いた、と思った。 それが、今年の霜の石畳の重みだと思う。来年も、一緒に歩く。その積み重ねが、続くことだと思っている。 一つだけ、今日感じたことを届けたい。 図書室に行った。いつもの席に座った。光がいつも通り入ってきた。でも、少し違った。 なぜ違うかを考えた。 エリナが、この光を見たから、かもしれない。一緒に見たから、自分一人で見る時も、一緒に見ている感じがする。 それが、続けることで起きることだと思う。 手紙を書く。                                 ――レイン―― エリナはレインの手紙を読んで、少しだけ目を閉じた。 一緒に見たから、自分一人で見る時も、一緒に見ている感じがする。 それが、続けることで起きること。 開けた。 レインへ「一緒に見たから、一人で見る時も一緒に見ている感じがする」という言葉を受け取りました。 私も、同じです。今朝、ルシェムの霜を見た時、学院の石畳を思い出しました。一緒に歩いたから、一人で見る霜の中に、あなたがいます。 それが、続けることで起きることですね。 来年の冬も、一緒に歩きます。約束しました。それが、今から楽しみです。 農地の年末報告を、来週ベルトとルナがまとめます。来年の計画が、少し見えてきそうです。                              

  • 灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える   94話 冬が来て、また霜の石畳へ

     十一月になった。 冬が近づいていた。 朝の霜が、また降り始めた。 エリナは毎朝、台所の窓を開けた。 今日の空気を確認した。 霜が降りていた。 薄い霜だった。 でも、毎年少しずつ厚くなっていく。 それが、冬の始まりの形だった。 霜を見るたびに、学院の石畳を思い出した。 今年も、その季節が来た。 十一月の初め、レインから手紙が来た。 エリナへ 今月の終わりか、来月の初めに行く。 今年も、霜の石畳を一緒に見たい。 学院の霜が、今年も降り始めた。朝、図書室に向かう廊下を歩きながら、今年もエリナが来ると思った。 それだけで、少し違う朝になった。 待っていてくれるか。                            ――レイン―― エリナはレインの手紙を読んで、「それだけで、少し違う朝になった」という一行を少しだけ見た。 来ると思っただけで、朝が違う。 自分も、同じだった。 レインが来る時期が近づくと、朝の空気が少し違う感じがする。 レインへ 来月、来てください。待っています。今年も、一緒に霜の石畳を歩きたいです。「来ると思っただけで、少し違う朝になった」という言葉を受け取りました。私も、同じです。あなたが来る時 期が近づくと、いつもと少し違う感じがします。 農地の件、ベルトとルナが腐葉土を混ぜる試みを続けています。来月の報告書を、一緒に持っていきます。                              ――エリナ―― 十一月の半ばに、ダリウスから手紙が来た。 エリナ・アッシュフォード殿へ 名誉回復の審議について、大きな進展があった。 先月、証言者が委員会で正式に証言した。アッシュフォード侯爵の改革案は、当時から正しい方向だったという内容だった。委員会は、その証言を正式な記録として採択した。 決定には、もう少し時間がかかる。でも、方向は決ま

  • 灰の令嬢は、知恵で世界を塗り替える   93話 秋の深まりと、届いた知らせ

     九月になった。 秋が来た。 朝の空気が、夏とははっきり違う冷たさを持ち始めた。 エリナは毎朝、台所の窓を開けた。 今日の空気を確認した。 今日は、秋の空気だった。 窓を開けるたびに、今日の変化を感じる習慣は、何年も続いていた。 変わらない習慣の中に、毎日少しずつ違う空気があった。 それが、続けることの形だと思っていた。 九月の最初の週、フィオナが長屋に来た。「一つ、伝えたいことがある」「どうぞ」「ダリウスから連絡が来た」「どんな内容ですか?」「父の名誉回復の審議について、進展があった。審議委員会が、アッシュフォード侯爵の件を正式に議題として取り上げた。次の会合で、具体的な審議に入るとのこと」 エリナは少しだけ止まった。 正式に議題として取り上げられた。「ダリウスが、教えてくれたんですね」「そう。定期報告の中に、この話が入っていた。重要だと思って、すぐに来た」「ありがとうございます」「礼はいらない。でも、一つだけ聞いていい?」「どうぞ」「どんな気持ち?」 エリナは少し考えた。「静かな気持ちです」「静か、というのは?」「大きな感情が来ると思っていた。でも、来なかった。静かだった。谁かがそうでした。当然のことが形になった、という感じがします」「当然のことが、形になってきた、か」「父が正しかったことは、もうわかっている。だから、名誉が回復されることは、当然のことだと思っています。でも、それが形になるまでに、時間がかかった。やっと、時間が追いついてきた」「時間が追いついてきた。それが、正確な言い方かもしれない」 セレーナに伝えた。「お母さん、また一つ、動きました」「名誉回復の件?」「はい。正式に議題として取り上げられました」 セレーナが手を止めた。 少しだけ、窓の外を見た。「そうかぁ」 セレー

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status